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アメリカでの出産物語【後編】

公開日: : essay / エッセイ, 里央菜(りおな)




 

第一子の出産物語。

夫婦お互いにとっての外国の地であるアメリカで、第二言語での出産という大冒険の後編です。

 

僕の文章を楽しみにしてくださる方がいるというのは有難いことです。

応援いただければやる気になるし、読んで頂いて楽しい文章を書かねばっと気合も入ります。後は里央菜の機嫌次第(笑)

 

そんな里央菜との対面からの物語です。

 

→以前の物語はこちらから。

 – アメリカでの出産物語【前編】

– アメリカでの出産物語【中編】

 

 

 

言葉にならない

 

”おかずが一品足りない時に冷蔵庫に入っている納豆”のような頼りになる看護士さんと、”2合ご飯を炊こうとして、何を考えたか4合分のお水を入れてしまって炊いた後のぐだぐだなご飯”のようにぐだぐだな僕との二人で、マリナの両足をそれぞれ抱え、娘が出てきやすいような体制といきみのサポートで始まった出産。

 

看護士さんが子宮口を確認するときに

おぉ。もう頭がそこまできてる!

 

と言った通り、もうそこには真っ黒な後頭部が見えていて。

 

 

あら〜。パパの髪の毛だね〜。

っと看護士さん。マリナは僕の日本人的な黒髪を娘にあげたいって常々話をしていたから、僕も少し嬉しくなって、

 

マリナ!里央菜、俺の髪の毛持ってるよ!黒髪だよ!!

っと叫ぶと、

あーー!とーーー!どーーー!れーーー!くーーー!!らーーー!いいい!!!!!!

(実際は英語です。)

 

っというマリナの叫び声が返ってくる。髪の毛の色は流石に痛みには勝てないらしい。

麻酔が中途半端に”効いてない”らしく、相当痛いみたいで、叫びに叫んでる。

 

妊娠する前から、

無痛分娩じゃなかったら出産はしないから、そこだけは理解してね。

 

っと僕に念を押しまくってたマリナ。

現実は無痛どころか、麻酔入れたのに激痛という泣くに泣けない状況になってしまっていました。それでも赤ちゃんはすぐそこまできているわけで、麻酔の効きを待つわけにはいかないのです。少しずつ、それでも一刻も早く麻酔が効いてくれることを祈りつつ。

 

 

想像では(僕の勝手な事前予習では)

ヒッヒッフー

っていう出産の呼吸があるとかなんとかっていう情報をウェブでも読んでたのだけど、こっちは(僕らがお世話になった病院では)この呼吸法はしないようになってるのか、看護士さんも一回もそのことに触れませんでした。なので、ひたすらいきむのみ。

 

3回セット。1回8秒前後のいきみという、放課後の運動部のような流れをひたすら繰り返しました。

1,2,3,4,5,6,7,8。はい休んでー。もう一度いくよー、1,2,3,4…..

っという流れです。

 

この運動部のセットの最中に、なぜか僕だけ呼吸が変化し続けていて、後から看護士さんに、「頑張って呼吸整えてたね」って褒めて頂けたのは嬉しかったけれど、ずーっと、マリナの足を抑えながら「ヒッヒッフー」を繰り返していたみたいです。無意識って怖いです。

 

20分もこのセットを繰り返していると、やっと麻酔も効いてきたのか、マリナもセットの合間の休憩時間(?)には話ができるようになって。

 

あとどれくらい?今どれくらい??

コントロールフリーク(Control Freak – アメリカでいう仕切り屋?)なマリナは、現状が把握できないことにイライラしつつも、実際に少しずつ出てきてくれている里央菜の様子を聞きながら安堵の表情を浮かべて。

 

うあ、やばい……寝そう……

とか、文章にしてしまうと一見、「緊張感のない言葉」に見える言葉を発しつつ(実際はまじで眠くなるらしい。睡魔と痛みといきみの戦い。すごい戦いです。)僕らの「もう少しだよ」っという言葉に残りの力を振り絞ってくれて。

 

エピソードとして凄いなぁと思うのは、マリナは身長が180cm以上もあるおかげで、ある段階で、「里央菜が出てこようとしているところ(羊水に浸かってた綺麗な黒髪も)を首を伸ばして確認できたこと」です。これを周囲に伝えたら、みんなドン引きしてました。普通は見れないんですよね。きっと。

 

 

40分ほど頑張ってくれたところで、里央菜の頭も十分確認できて、やっとここでお医者様の登場です。

時間が夜の10時前っと、一番いい(?)時間帯だったのか、二人のインターン生も連れて、お医者様の登場。いきなり総勢7人の大所帯となり、みんなで里央菜の誕生を今か今かと待ちわびます。マリナの残された頑張りを応援します。

 

そして、ついに奇跡の瞬間が。

あの、「ツルん」っと赤ちゃんが出てくる瞬間っていうのは、時間が止まりますね。一瞬映画を見ているような感じで、全身の感覚がなくなり、ふっと一瞬”無”になる。

 

素晴らしい体験でした。

インターン生から、「パパ、へその緒切りますか?」っという質問と同時にハサミを手渡され、マリナと里央菜を繋いでいるコードを僕が切って、里央菜がこの世に誕生してくれたのです。この瞬間、ちょうど夜の10時でした。

 

 

里央菜とのご対面

 

賛否両論(というか危険性も提言されている)があるケア方法ですが、マリナと僕は「カンガルーケア」という、新生児が生まれたその瞬間に、母親と肌を触れ合わせて授乳をするという方法を希望しました。

 

「つるんっ。」

っと出てきた瞬間に、大きな大きな声で泣いてくれた里央菜。

その元気な泣き声に感動しつつ、看護師さんが里央菜をきれいにしてくれて、すぐにマリナの胸元へ。感動の母娘の出会いです。僕はもう……泣きっぱなし(笑)

 

父親は間違いなく僕だと

 

自分の胸元に、愛しの娘を初めて抱くマリナ。

里央菜の顔を見て、一瞬無言になります(笑)そして吹き出した後、しっかりと抱きしめるのです。

 

僕も里央菜の顔を覗き込みます……里央菜の顔を見て、無言になった後に吹き出してしまった理由を悟るのです

 

 

あちゃぁ〜〜〜。

 

日本語で言葉が漏れてしまっていました。

もうね、見た目が僕そっくりなのです。僕の小さいバージョンが、マリナの胸元に横たわってました。

 

 

leona-1

 

 

 

母親は自分の娘だって確認できるけれど、父親は確認できないから大変よね。」

 

なんて冗談を言っていた僕ら二人。

日本人っぽくない子が生まれてきたら不安になるんだろうなぁ」なんてアホなことを言っていた僕。

 

完全に僕の子です。

 

*その後、1週間経ち、10日経ちっと時間が経つにつれて、マリナの顔つきに変化してきています。遺伝子の大融合です。純日本人と純ユダヤ人のミックス。今後の成長も楽しみです。

 

 

leona-8

 

 

 

 

いろんな意味で眠れない病室

 

日本の出産に比べ、アメリカの出産は入院期間が短いです。

出産から24時間は病院にいるように強制されますが(マリナは当日に帰りたかったっぽい)、その後はいつでも退院できます。退院できるし、逆に言えば、それ以上入院するのはオススメされていないような感覚でした。きっと保険でもカバーされてませんしね。

 

自然分娩で1日〜2日。

帝王切開でも3日安静にした後、4日目には退院のようです。

 

初めての出産。初めての子育て。病室にいるのは子育ての超素人の僕とマリナだけ。

 

定期的にバイタル(体温とか心拍とか)を確認しにきてくれる看護師さんが、入れ替わり立ち代わり病室に入ってきて落ち着きません。深夜のシフトに入ったからなのだろうけれど、ほぼ徹夜で過ごした一晩の間で3人は代わりました。ナースステーションに赤ちゃんを預けて休むことはできるのだけど、ひたすら「理想論」を追い求めていた僕らにその選択肢は考えられず。

 

夜はどんどんと更けていき、どんどんと疲れは溜まっていきます。

 

とはいえ暇なわけではないのです。

入院時に説明を受けていた様々なことに気を配りつつ、退院後のケアや子育て方法とかに関する膨大な書類やビデオを”確認”しました。っといっても、頭が働いてなくて、あんまり覚えてないのが本音なのですが、そこで完璧にマスターできなくても、必要に応じて習得していけるのが子育て。完璧なんぞありません。

 

僕とマリナがひたすらビビらされたのが、SIDS(乳幼児突然死症候群)

後々(2週間検診の時に)、小児科医から

そんなにビビる必要はないんだけどね。

っと安心できる言葉はいただけて緊張は少しは和らいだのですが、あれだけ何枚ものパンフレットとビデオを見せられると、やっぱり不安になります。少しでも里央菜の呼吸が弱くなると、息してないんじゃないか……とか。

 

このナイーブな子育ては2週間ほど続くのですが、初日は一番酷かった(笑)

少しの物音、少しの里央菜の動きで、僕もマリナも飛び起きる始末。しかも、ふと睡眠に入ったかと思っても、看護師さんが、

 

脈拍とるよー!!(朝3時)

っとしっかりとお仕事をして下さって、なかなか眠りにつけない病室でした。

 

眠りにつけないのは病室だけの話じゃなかったのだけれども。

 

 

退院から新たな生活へ

 

出産から約36時間後、18日の朝にマリナと里央菜は無事退院できました。

16日の夕方、一人で「夕飯どうするかなぁ」なんて考えながら運転していった車に、18日の朝にはチャイルドシートに小さく収まっている里央菜と、それを心配そうに微笑みながら見つめるマリナが後部座席に座っていて。

 

父親になったんだなぁ……と、改めて感慨を覚えました。

 

超がつくほどの安全運転で帰宅。

途中でマリナの薬をピックアップしつつ、全く問題なく(一度も里央菜が泣くことなく)帰宅できて、新しい生活が始まる今までと何も変わらない家に、新しく家族となった里央菜と一緒に足を踏み入れます。

 

そう。そこにはもう一人(一匹)の家族が待っていて。我が家のプリンセス(愛猫のEzi)が、未知(里央菜)との遭遇のお時間です。

 

leona-ezi

 

 

 

このブログを書いているのが、出産から1ヶ月ほど経った4月の17日。

やっとプリンセス(愛猫 – Ezi)も里央菜に慣れてきたのか、少しずつ側にきては匂いを確認し、里央菜が少しでも動くと大逃げをかますという微笑ましい日々を過ごしています。Eziには負担をかけてしまっているけれど、きっと新しい家族と仲良くして、里央菜とEziが良い姉妹になれることを楽しみにしているのです。

 

 

マリナと僕。

生まれた場所も、育った環境も、信じているものも価値観も結構違っている二人なのですが、不思議なところで共通項もたくさんあって。

 

その共通項の一部が

「心配症」と「OCD(強迫観念)的なコントロール症(物事をコントロールできないと不安になる)」です。

 

完璧主義っぽく見えてしまうのも、きっとこの二つがあるから。

予定通りにいかないと不安になるし、「万が一の最悪のケース」を想定して動いているし、お互いの意見を尊重しすぎるし。

 

この性格での子育ては、我ながら言うのも変ですが、結構大変です。

少しずつ妥協や力を抜くことを覚えていく必要があるのだと思っています。周囲(パートナーも含む)の意見に耳を傾けない我とその自信が必要になってきているのかもしれません。これは親としての僕らが頑張らなきゃいけないこと。

 

 

里央菜が生まれて生活は変わりました。

子供が生まれると、自分は人生の主役から一歩身を引くことになります。少し違う表現をすると、自分の人生という舞台に、主役並の重要度を持ったキャスト(子供)が参加します。

 

「〜〜がしたい!〜〜を達成するんだ!!」

という自分でコントロールできていた日々は、子供の都合によってやっぱり変化していくし、変化していくべきだと思うのです。そして、それが親になることであり、子供を持つ主婦(主夫)になることなんだろうなっと思うのです。

 

 

里央菜中心の日々です。

どれだけ目の前の仕事や家事に集中していても、里央菜が泣けばその作業はストップです。一度ストップした作業は、なかなか再開させることができません。再開させる為にエネルギーを使って再度集中しても、その瞬間に里央菜が泣く可能性もあるのです。どんなことがあっても里央菜が第一優先事項です。

 

仕事に句読点を打つこと、一つ一つ区切りをつけて終わらせてから次の仕事に行くことは、仕事を効率的にする上で当たりまえのことだと思っていたけれど、仕事をスムーズに進める為には本当に重要だったんだね。

なんてマリナとも話しています。

 

 

でも現状で、これでいいと思うのです。

理想を追いつつ、本を読んで勉強しつつ、他の人の意見に惑わされつつ、それでも里央菜とひたすら一生懸命向き合って、里央菜にとっての最適の解を見つけていく。解(答え)がないんだったら、一緒に悩む。リスクを理解した上で、覚悟して一緒に進む。

 

そんな子育てを今後も続けていけたらと思うのです。

 

*****    *****    *****    *****    *****    *****    *****    *****    *****    *****

 

長々と前編、中編、後編と書いてきたアメリカ出産物語。

まだまだ書きたいことはあるのですが、ここで一度、句読点を打とうと思います。

 

子育てに関しても、新しい生活に関しても、わからないことだらけです。

少しだけ文章にて触れた「カンガルーケア」についても、ネット上にもネット以外にも、賛否両論が飛び交っています。完全母乳が最適解(ベストな子育て)という人もいれば、完全母乳は危ないという人すらいます。

 

何が正解かわからないこの世の中で、僕ら親に求められているのは、子供の気持ちを汲み取るどりょくをすることなんだと思います。

 

子供が自分の気持ちを言葉に表現できるようになるまで。

表現できるようになっても、その表現にアイデンティティができてくるまで。

アイデンティティが確立できてきた後も、自分の表現に自信が持てるようになるまで。

 

 

正しい答えがないからこそ、里央菜とマリナと一緒に悩み、いっぱい話して、一緒に表現していけたらと思うのです。そしてそんな悩みや葛藤も、僕の日々の一部として、これからも文章にし続けていけたらと思うのです。

 

どうぞこれからもよろしくお願いします!!

 

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