*

手仕事のチカラ

公開日: : Sashi.Co, 大槌刺し子




 

大風呂敷を広げてしまうことになるかもしれませんが、2011年以降、僕はある確信を持ち続けているのです。

 

それは

「手仕事は、ある社会問題の解決案となりうる」

ということ。

 

「手仕事のチカラ」として以前のブログでは何度か紹介をしたし、復興支援の報告会としての講演をしたこともあります。

2011年3月の東日本大震災で甚大な被害を受けた大槌町にて、「魚(物資)よりも釣竿(生活手段)を」という願いと共に「大槌刺し子プロジェクト」が有志によって立ち上げられ、そのプロジェクトにアドバイザーとして1週間滞在し、その後2ヶ月少しの間滞在して得た経験は、僕が今支える母親の「Sashi.Co」プロジェクトの重要なコアになっています。

 

 

ポスター入稿2

*写真は過去の講演の時のものです。

 

 

手仕事は、手仕事で結ばれるコミュニティは、社会問題の解決になると信じているのです。

 

 

”家族の為”が”未来の社会の為”に変わる瞬間

 

2008年、僕は家業である刺し子専門店 – 手仕事をメインとした製造業 – に戻る事を決めました。

当時会社の社長だった父親のお願いに応える形で、手仕事を通して糧を得る生活に入りました。家業である以上、失敗すれば家族が路頭に迷います。「景気がよくない」とか「手仕事の業界が厳しい」とか、苦しい実情をどれだけ並べても、それは言い訳にもならず、僕は家業を守る為に、それこそなりふり構わずに働きました。それが家族を守る事だと思っていたからです。

 

2010年末、努力の甲斐もあり、念願だった単年の黒字化も一度達成し、継続して利益を出せる(あるいは損失を出さない)ようになっていました。企業文化と会社そのものが高齢化してしまっている中で、発展は求めないまでも、損失を出さずに事業を継続できるというところまで形にすることができました。

でも、そこで僕は燃え尽きてしまったのです。

職人が減ってしまう未来を見据えて、またなかなか増えない売り上げへの苛立ちを抱えながら、僕の存在意義、そして刺し子という手仕事の存在意義はどこにあるのだろうと悩んでいました。

 

震災後、「大槌刺し子プロジェクト」と出会いました。刺し子を復興支援に使っていたプロジェクトで、偶然にも僕は刺し子業のプロでした。

2011年11月に、初めて大槌にも訪れる事ができ、そこで、一生懸命刺し子をしていらっしゃる人々と出会って、僕が抱いていた馬鹿らしい悩みは吹っ飛んでしまったのです。元世界銀行の西水美恵子さんのお言葉を借りれば、「大槌には刺し子をする観音様達がいる」というような、本当に観音様のような刺し子さん(刺し子職人さん)に出会い、僕の存在意義も、そして刺し子という手仕事の存在意義もはっきりと認識できました。観音様たちに教えて頂いたのです。

 

僕が20代の全てをかけてきたことは、「未来の社会の為」の仕事になりうる、と。

 

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*画像が小さくてすみません。

 

 

諦めず、ひたすら信じて

 

2013年末に様々な不幸が重なってしまって、僕と、その僕の未来を応援してくれていた母親は、会社を失いました。

「もう刺し子(手仕事)とは関わらない」と自分に言い聞かせた日々もありました。でも、何か心に引っかかるものがあったのです。そんな時、母親が「今度は私が主になって刺し子をする。会社の為だとか、お金(利益)の為だとかじゃなく、私が私の作品を好きでいてくださる方の為に、刺し子を続けたい」という想いの元、”刺し子でデザインする – Sashi.Co”を立ち上げました。

 

Sashi.Coはまだまだ赤ちゃんのようなビジネスです。

個人事業ですし、お給料も払えないので従業員さんもいません。母親が中心となり、手仕事が得意な人で様々な作品を作り続けています。できあがった作品は、僕が子育ての合間の時間を見ながらウェブサイトでご紹介し、少しづつではありますが知って頂けるようになってきました。

 

広告予算無し&専属のスタッフ無し&製造能力も十分ではない(手仕事なので時間がかかる)という、未発達なビジネスです。

それでも、母親は日々楽しみながら刺し子作品を作れているし、また作品制作を通して様々な人と交流ができています。夫を亡くし、会社から追い出され、僕の「アメリカで一緒に住もう」という誘いを断っても刺し子が好きな母親なのです。結果として一人になってしまった母親にとって、刺し子という手仕事は、仕事であり、そしてコミュニティそのものになったのです。

 

以前と同じ業種に戻っただけ……とはいえ、規模が圧倒的に違います。

10人程の従業員を揃え、刺し子制作においても様々な工夫ができる以前のバックグランドと違い、今は僕と母親、そして母親を応援してくださる方だけが、Sashi.Coの持つリソースです。しかも、その内の一人は、日本国外で子育て主夫をやっている(笑)

 

僕らの退職と共に関係が切れてしまっていた大槌刺し子との関わりを、もう一度持ちたいと願いつつも、僕らからお声がけすることはできませんでした。それでも、見てくれている人は見てくれているのですね。諦めずに、信じていた僕らに、吉報が訪れました。

 

 

手仕事でコミュニティを作っていく

 

母親が(恵子さん)が、もう一度、大槌に訪れる事が決まりました。

今度は「支援」という意味合いが強い訪問ではなく、「Sashi.Coとのコラボレーション」という意味合いでの訪問です。大槌刺し子とSashi.Coの刺し子が出会ってどんな化学変化が起こるのか。もう楽しみで仕方ありません。

 

 

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手仕事は、不思議な産業です。

産業革命以降、機械化が進んで大量生産によってモノの価格が決められるようになった今、人の手だけで(ミシン等は使うけれど)作られる作品は、市場に出た途端、とても高価なものになってしまいます。そんな手仕事に価値を見出してくれる人がたくさんいるからこそ、今も手仕事がこの社会に残っています。そして僕は、その文化を今後も残したいと思うのです。

 

ある人は、こういうかもしれません。

「優秀な経営者がいれば、どんな会社もうまくいく。経営者次第で会社は変わるんだ」、と。

ある人は、こういうかもしれません。

「現代はデザインが全てだ。良いデザインであれば、認められ、そして利益もついてくる」、と。

また違う人は、こういうかもしれません。

「実際に技術を持った人こそ、もっと認められるべきだ。職人が認められるようになれば社会はよくなるはずだ」、と。

 

きっと、どれもが正解なんだと思います。

優秀な経営者がいて、最高のデザインができて、そして至高の技術があれば、きっとうまくいくビジネスも多くあると思います。もっといろんな要素が絡みあって、今の社会ができているにしても、リーダー、デザイン、そして技術は、今の世の中から切っても切り離せない要素です。

 

ただ、刺し子という手仕事においては、絶対に忘れてはいけないものがあります。

 

それは、「コミュニティの存在」です。

コミュニティなんて横文字で書きましたが、要は人が集まる場所。もっと簡潔に言えば、「人」です。どれだけ優秀なリーダーがいても、どれだけ秀逸なデザインがあっても、そしてどれだけ素晴らしい技術を教える人がいても、「人の手のチカラ」によって成り立つ手仕事においては、コミュニティとそのコミュニティにいてくれる人の存在が何よりもの要素になってきます。

 

人が集まれば揉め事もおきます。その揉め事も飲み込みつつ、そして一つのモノを作り上げようとする。

一つのものを作り上げられるだけの下準備と、指示と、そして最終的な到着地点(完成像)を提示できるだけのプロデューサー的な役割を果たす人が必ず必要になってきます。そんなプロデューサーがいれば、手仕事によるコミュニティは、「社会問題を解決する一つの提案」にすらなりうると、僕はずっと信じています。

 

高齢化の社会においても、手仕事であれば、多くの方が参加できます。パソコンもメールも必要なく、孤独な老後を心配する必要もありません。手仕事中は口が自由です。生産性を考えれば無駄なお話は控えるべきなのかもしれませんが、僕たちは機械ではありません。適度に世間話をしながら、手仕事をする。

 

過疎化が進んだ地方にも、技術を持った人はたくさん埋もれていると思います。昔だったら当たり前にあった洋服の仕立て屋さん、お直し屋さん。針仕事が得意な人は実は沢山いるのです。機械化による大量生産により人件費がかけられなくなった今、仕事がなくなってしまいましたが、そんな人たちの持つ能力はとてつもなく価値があるものです。大槌でも沢山の技術を持った人たちにお会いすることができました。当時20代後半だった僕が、「刺し子のプロ」を名乗るのは申し訳なく、そして恥ずかしいほどの技術を持った人たちがそこにはいました。

 

高齢化社会、地方の過疎化、女性の社会進出、日本の伝統工芸の継承、日本らしさの発信、こうやって例をあげたらキリがありません。

 

僕らが今踏み出した一歩は、手仕事でコミュニティを作るという小さな一歩です。

その小さな一歩が、社会を変えうる解決案の一つになることを信じて……、そしてもっと言えば、手仕事を通して母親と、母親と関わってくれている人が楽しんでくれる未来にワクワクして。

 

僕と母親、そして大槌刺し子とテラ・ルネッサンスの物語。

第二幕に突入します。

 

 

 

 

 

 

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