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刺し子を通して伝えたいコト。

公開日: : BLOG, アメリカ生活, 刺し子, 書き物など




去年から何度か書いた文章。「刺し子と共に生きる」だとか「手仕事のチカラを伝えたい」とか、後から読み直すと、まぁこれほどまでに曖昧な表現はないなぁと逆に面白くなってきて。その曖昧さが僕らしさでもあるのですが、それにしても、自己満足の文章すぎる気がするので、少しフォローアップの文章も残しておきたいなぁと思うのです。

 

刺し子を通して伝えたいコトがある

 

刺し子と共に生きる僕の人生の最終到着地点は、「刺し子職人」ではありません。英語では人様から頂いた肩書き、「Sashiko Repair Artist」なんて名乗ってはいますが、実は、「刺し子アーティスト」が僕の最終目的ではないのです。もちろん、刺し子で何かを作る人ではあり続けるだろうし、刺し子はもう決して辞めないだろうけれど、「刺し子」で名前を残そうとは、あまり思っていないというのが本音です。

 

理由は二つ。

 

天才を知っている

一つ目は、「刺し子作品」として素敵なモノを作る上で、母親である二ツ谷恵子の作品は、俺の人生の残りをかけても越えられないんじゃないかと認識してしまっていること。僕が還暦を迎えた時に、来年還暦を迎える母親のレベルの作品は、きっと作れないだろうなという確信に似たものがあって。技術的にも僕はまだまだだし、仕立ても下手、デザインも下手、色彩感覚も微妙、刺し子以外の針仕事も苦手……と、ダメダメ要素は揃いまくりなのだけど、そういった「時間を費やす努力」で追いつけるものではなく、二ツ谷恵子の刺し子への楽しみが詰まった作品には、もう僕は追いつけないんだろうなと思ってしまっているのです。

僕の作品が有名になって刺し子に名が残るくらいなら、母親の作品を有名にして、母親の名前を残したい。

 

それほどまでに僕は母親の作品に心酔しています。じゃなきゃ、異国での子育ての中、還暦間近の母親と一緒に親子で起業なんぞしません。それだけ、母親の作品にはチカラがあり、魅力がある。30年間刺し子をしながら、それでも表面的には刺し子を禁止され、且つ名を世に出せないと抑制された彼女が作る、「刺し子って楽しいなぁ!」という思いが詰まった作品は、もう凄いのです(笑)

 

刺し子を生きる知恵として

もう一つは、刺し子そのものが「日本人にとっての当たり前の日常」だったという事実です。

刺し子に限らず、他の民芸もそうなのですが、僕にとって「公知」という意識が強すぎて、なかなか刺し子という技術と作品で身を立ててやろう……という気持ちになれないのです。もちろん、これは僕が勝手に葛藤しているだけで、刺し子で身を立てようと頑張っていらっしゃる方は応援したいと思っているし、恵子さんのような才能も技術もある人は、どんどん世に出ていくべきだとすら思っています。

 

そんな中、僕が刺し子を通して伝えたいことは、「どうやって刺し子をする(How to do Sashiko)」ではなく、「なぜ刺し子をするか(Why Do we Do Sashiko)」なのです。刺し子には瞑想的な効果があります。ささくれだった心が落ち着き、マインドフルネスを感じられ、今この瞬間を生きているという思いを感じることができます。スピードと効率をひたすらに求められる世の中で、針仕事としての刺し子を通して、「心を休める生き方」を伝えていきたいなと思っているのです。書籍でも、ブログでも、人前で話す講演でも、ワークショップでも、なんでも。

実際に、そんな刺し子のチカラを「大槌復興刺し子プロジェクト」を通して学んできているし、理学療法士の先生の方とも話をしていて、何かしらの「刺し子の発展形」がないかと考えています。

 

刺し子は元々、貧困の中で、物質的に”補う”文化です。

布が手に入りにくい場所では布を補強&補修し、また粗雑な布しか手に入らない場所では布を厚くして。

 

現代の日本において、刺し子をして布を補強しなければならないという地域&コミュニティは存在しないのではと思います。

そんな中、なぜ刺し子なのか。やっぱり僕は、「現代の日本人にとっての当たり前の日常」の中に刺し子を落とし込んでいきたい、とするならば、それは「手芸としての刺し子」だけではなく、「それ以上に意味を持った刺し子」に注目する必要があるのかなと。つまり、現代の刺し子は、効率とスピードの中ですり減らされてしまっている、精神的な何かを”補う”文化なのではないかと思うのです。

 

 

だからこそ、刺し子配信

 

逆説的にはなるけれども。刺し子配信を開始した目的は、米国で刺し子のワークショップをしたり糸や材料を販売する為に起業した会社の宣伝目的でした。だから英語での配信がメインだったし、「僕が刺し子を楽しむ配信」というよりは、どうしたらお客様(ご覧頂いている方)のニーズに答えることができるだろうかという商売っ気に焦点を当てたものでした。

 

半年以上の時間を経て、いまでは刺し子の楽しみを共有する場として、僕の日々になくてはならないものになっています。

そして、この刺し子配信こそが、僕が作りたいものを表現できている場だと思うのです。オンラインというパソコン越しではありますが、そこにコミュニティが存在し、「刺し子で何か作品を作る」という目的がなくても、楽しい時間を一緒に過ごすことができ、そこに居場所を感じることができる。これぞ、「日々の疲れを癒やす刺し子」なのではと、ちょっと自慢にすら思っているのです。

 

 

伝えたいことは、運針を楽しむこと

 

刺し子を通して伝えたいことをまとめると、「運針を楽しむこと」です。

針の動きをみながら、針目を評価するでもなく、自分を卑下するわけでもなく、誰かと比べるわけでもなく、針をひたすらに進めていくことにより、現実と向き合うことができるのでは……と。現代はインターネットの発達とスマホの普及により、「現実から目を背ける手段」は山のようにあります。VRの世界でゲームをすることもあれば、普通にYoutubeに没頭することも、現実逃避と言えるかもしれません。その対極にあるのが刺し子なのではと思っています。

 

ゲームやテレビから脳に入ってくる情報は、受動的、あるいは過多の状態です。

刺し子から脳に入ってくる情報は、能動的、且つほぼゼロに等しいです(笑)とても原始的というか、針を進めるだけです。

 

これが、僕が「刺し子と瞑想は似ている」と勧めている所以です。

 

この「無に等しい状況で今を見つめること」をマインドフルネスとも言ったりしますが、人間の原始的な感情や脳の使い方をすることによって、日々の当たり前の有り難みを、当たり前だった針仕事を通して感じることができたら素晴らしいなぁと。恵子さんの言葉ですが、「針と布と糸を通して、文明開化前の日本人と意識を共有し、たくさんのことを教えてもらっているんだよ……」そんな刺し子を今後も続けていけたらなと思うのです。

 

 

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